「第5回オタワ条約締約国会議バンコクで開かれる」
JCBL 北川泰弘
1.第5回締約国会議とは?
来る2003年9月15日(月)から19日(木)まで、タイ国の首都バンコックで、オタワ条約(対人地雷全面禁止条約)の締約国(条約に参加した国)の第5回の年次会議が開かれる。それを第5回締約国会議(5th Meeting of State Parties, 5MSP)と言う。
締約国会議は、その年の地雷関連国際会議の中で最も重要な会議である。この一年で新しく何ヶ国が条約に参加したか、条約で定められた約束を各国が実行しているか、条約の適用又は実施を阻害する問題はなかったか、を検討し合う会議である。
地雷の除去、地雷犠牲者への援助、保有地雷の廃棄、地雷を禁止する国内の法律の整備、条約参加国を増やす努力等、条約の目標達成状況を反省して、更に新しい努力目標を定めるのである。
来年、2004年は条約発効の5年目に当たり、条約の運用および締結状況を検討する第一回検討会議が開催される。それまでの間、毎年国連事務総長が締約国会議を招集するのだ。会場は原則的にはジュネーブの国連本部である。しかし、地雷に問題がある地域をアピールさせるために、第1回(1999年5月)はアフリカのモザンビークで、第3回(2001年9月)は中米のニクアラガで開かれた。第5回がバンコックで開かれるのである。
2.第5回締約国会議がアジア大洋州地域(以下アジアと略称)で開かれるのは?
地雷問題で最も重要な地域がアジアだからである。アジアは地雷が人道上最も深刻な地域である。それにも関わらず、アジア40ヶ国のうち半数以上の国々が地雷を禁止していない。約12ヶ国が地雷を未だに使っており、製造をしている。今現在、地雷を製造し、使っている国の数が他のどの地域よりも多い。
2003年11月に東チモールが締約国になるのでそれを加えても、アジアの締約国は17ヶ国である。署名したが批准をしていない国が5ヶ国、地雷禁止に賛成していない国が18ヶ国もある。同じ11月の締約国数がアフリカ地域で44ヶ国、米州地域で32ヶ国、欧州・中央アジア地域で37ヶ国であるのに較べて、アジア地域は著しく少ない。
また、アジアには世界で最も地雷の被害を受けている国がある。アフガニスタン、バングラデッシュ、ビルマ(ミャンマー)、カンボジア、インド、韓国、ラオス、ネパール、パキスタン、フィリッピン、スリランカ、タイ、ベトナム(英語のアフファベット順)である。
一方、アジアでは地雷除去の面で幾らかの進展があった。例えば、カンボジア、タイではかなりの広い地域の地雷が除去された。地雷の被害が最も多く、最近まで地雷の使用国であったアフガニスタンが第4回会議直前に、東チモールが第5回会議直前にオタワ条約に加入をした。また、この地域の締約国諸国は、二国間の話し合い、或いはアセアン会議等の色々な国際会議における多国間の話し合いで、オタワ条約未参加国に対して積極的に条約への参加を勧誘してきた。また、多くの締約国が地雷対策や地雷犠牲者援助に大きな貢献をした。
ICBLはアジアの未参加国に対し、バンコック会議が開かれるまでに条約に参加するよう、積極的な勧誘をした。2002年11月以来、インド、パキスタン、インドネシア、スリランカの4ヶ国を重点国に選び、各国のキャンペーン団体がこれらの国の政府に手紙を書いて、バンコック会議までにオタワ条約に参加することを求めるよう、呼びかけた。JCBLは手紙ではなく、ICBLがスリランカ、ネパールに派遣したミッションにJCBLの一名が加わり、両国の政府首脳および、反政府武装勢力のトップに対人地雷の使用禁止と条約への参加を呼びかけた。
ICBLはその他、2003年1月、コロンボでのランドマイン・モニター報告書リサーチャーのアジア地域会議を開催、2月に地雷国際大使ジョディイ・ウイリアムがビルマを訪問、3月にカンボジアで開催された地雷対策地雷対策プノンペン東南アジア地域セミナー(東南アジア諸国の地雷対策の共同構築に向けて)に参加、等の活動を行った。
3.締約国会議に参加するのは?
地雷廃絶のために活躍中の全員が参加する。締約国の政府代表、オブザーバー、ICBLおよびメンバーNGOs、赤十字国際委員会、国連機関である。外交官、地雷被害生存者、地雷除去従事者、地雷廃絶活動家等で600人の参加が見込まれている。9月1日に条約が発効するサントメ・プリンシペを加えた締約国132ヶ国の代表は票決権を持つ。批准したが6ヶ月を経過しないので条約未発効の4ヶ国(東チモール(2003年5月7日加入)、リトアニア(5月12日批准)、ガイヤナ(8月9日批准)、ベラルーシ(9月3日加入))、条約に署名したが未批准の国(12ヶ国)、未署名の国(47ヶ国)の代表はオブザーバーとして出席できる。ICBLも正式のオブザーバーとして参加する。世界のICBL関連のキャンペナー、地雷除去従事者、地雷被害生存者、ランドマイン・モニター報告書リサーチャー等、約120人である。報道関係者も会議等の諸行事に招待される。
4.ICBLは何をするのか?
ICBLはこれまでの締約国会議でやってきたと同様に、政府レベルの会議に対し、市民社会としての最大の貢献をしようとしている。TCBL(地雷廃絶タイ国キャンペーン)が会議のホスト役を務め、バンコックでのICBLの活動を支援する。ICBLの代表団は世界60ヶ国以上からの120人の最大の代表団になるであろう。ICBLは締約国会議に代表としてでない公式の資格(official non-delegate status)で参加する。開会式ではICBLのノーベル平和賞受賞者のジョディイ・ウイリアムが国連の事務総長らの高官と共に挨拶をする。本会議では、前年の例によれば、ヒューマンライツ・ワオッチのスティーブ・グースが、この一年間の成果についてICBLとしての正式の所見を述べる。ICBLはその後に続く色々な作業部会にも参加し、数々の意見を述べる予定である。
ICBLとして、今度の会議に最も強く働きかけるのは次の3点である。
(1) 条約第一条(C)の「援助し」の記述の拡大解釈に合意を取り付け、締約国が未締約国と共同軍事行動を行なう際に、対人地雷の使用、開発、生産、取得、貯蔵もしくは保有、直接若しくは間接の移譲等、如何なる形でも協力できないようにする。
(2)条約第二条1の定義から「処理防止のための装置を備えたものは、当該装置を備えているからといって対人地雷であるとはされない。」の部分および関連の記述を抹消する。同装置は事実上の対人地雷として戦闘行為終了後の無差別兵器になる可能性を持つからである。
(3)条約第四条、第五条で定められた貯蔵対人地雷、敷設地域の対人地雷の廃棄期限を守れないとみなされる国に対して警告を発する。自力で廃棄が出来ない国に対しては、余裕のある国の援助を斡旋する。
ICBLは締約国会開催に先立つ9月9日にランドマイン・モニター報告書(地雷なき世界に向けて)の2003年版を世界の各地で発表し、説明会、展示会を開き、記者発表を行い、会議場で各国政府代表団に対するロビイ活動を行う。オタワ条約は世界で始めて、カナダ、ベルギー、ケニヤ等の中小の国々の政府とNGOsが主導して成立させた条約であるので、我々NGOの立場で各国ごとの条約の実行状況をモニターし、報告書を作って締約国会議に出席の各国代表に配布して国レベルの注意を促すのである。
TCBL(タイ・キャンペーン)も会議開催前の7月までに、「地雷対策写真コンテスト」、「地域セミナー、対人地雷は有用か?」、「地雷廃絶フェア」など、沢山の行事を行い、締約国会議の開催前にタイ国内の世論を喚起することに努めてきた。
ICBLとTCBLはまた、次のような関連行事を開催する。
(1) 反政府武装勢力に対人地雷の使用中止を呼びかけるワークショップ: 9月13日
(2) 地雷原、地雷除去、犠牲者援助、地雷回避教育の現地視察:9月13日
(3) アジア地雷犠牲者の声の発表
(4) 前日の会議の模様を速報として作成し、毎朝会議出席者に配布する。
(5) 必要に応じ、締約国会議の会場内でのテーマごと、地域ごとの小集会を開催する。
(6) 会場内で地雷関連の展示会を開催する。
5.最後に
ICBLは締約会議終了後の9月20日、21日にバンコク市内で、ICBL総会(2年1回の)を開催し、2004年11月の条約再検討会議、およびそれ以降の活動の戦略を審議するする。このように、締約国会議は政府レベルの会議であるが、条約成立の経緯からNGOであるICBLが深く関わっている。今後もICBLが強く関与して2004年の再検討会議において、オタワ条約がさらに現実に適合するように改訂されることを望むものである。
また、今度の会議で、日本はカンボジアと共に、来年の再検討会議までの間の2月と5月に開催される「地雷除去、地雷回避教育、地雷除去技術 専門家会合」の共同議長に就任する。この最も大事な分野における日本の貢献を期待するものである。